終末遊園地

舞台背景　

東京が息を止めてから、２２年の歳月が過ぎた。

２０１１年７月。
あの夏を知る少年は大人になり、そしてよく知る者ほど早くに死んでしまった。
大人達は後悔し、嘆き悲しみ、怒り震え、そして皆、老人になった。

だが、誰もが口を揃えて言う。
「あの夏のことは良く覚えている」
そして、もう一つ。
「誰も、ああなるとは思っていなかった」

７月１０日と聞けば、誰もが東京湾汚染事件の事を思い浮かべるであろう。
国中をパニックに陥らせ、世界恐慌を生んだD-DAYの７月は今も諸国民に忌まわしき日として記憶されている。

蘇我から川崎に至る汚染地域の封鎖と強制退去。
後に物議を醸す羽田の強制退去と１２７便事件。
この日を語るにはあまりに事件が多く、何から話して宵のかすら分からない。

ともあれ、一夜にして東京の方々にゴーストタウンが出現し、主要街道は避難民で溢れ、随所で大小のパニックが発生したのだけは、誰もが知る事実である。

東京が都市としての機能を停止させた途端、世界中の市場で円が投げ売られた。
主要市場で円は取引停止となり株価は相次いで暴落。
経済の回復は１０年に及ぶ汚染除去作業の終了を持ってしてもかなわず、第二次朝鮮戦争特需を待たねばならなかった。

恐慌時代に荒廃の一途をたどった人心は、戦争特需によって拝金主義の蔓延を生み、もはや収拾付かないところまで落ちてしまったのである。

近年になって治安は確かに回復した。
だが、今やどこへ行っても常に誰かに見られており、聞かれている。もはやこの国に個人の秘密など存在しない。
確かに経済も回復し、再び我が国は経済大国の地位を得るに至った。
しかし、失われた物はあまりに大きかった。
東京生まれと聞くと大抵の人は眉をしかめる。
東京都臨海区と聞けば、誰もがその場を去るであろう。
２０１１年７月１１日の東京湾汚染事件は、忌まわしき土地の名を取って、「リンカイ事件」と呼ばれている。
それは２０３３年が終わろうとする今も変わらないのである。