電気仕掛け 作:GLUMip 名雪は朝が弱い。 今日もまた緩慢な動きでジャムを塗りたくっているが、 見ているとさっきからずっと塗りつづけている。 「イチゴジャム…」 名雪の口元が僅かに緩んだかと思うとそのまま手が止まり、パッタリと床へ倒れ込んだ。 「秋子さーん!また名雪のゼンマイが切れましたよー!」 台所の秋子さんを呼んでゼンマイを巻いてもらうのもいつもの光景…のはずだった。 「祐一さん、名雪はもう電気で動いてるんですよ。私をからかっちゃだめですよ」 遠くから秋子さんの声がする。 名雪の顔を覗き込むと目を見開きポッカリと口を開いたままこときれている。 「名雪…うわっうわぁーーーーーー!!」 固くこわばった名雪の体を揺するが反応は無い。 「名雪ーっ!」 そんな、寝ぼけ半分の朝の挨拶が今生の別離になるなんて悲しすぎる。 俺の頬を涙が伝っては名雪の上にポタポタと絶え間無く垂れ落ちた。 「あらあら」 騒ぎを聞きつけた秋子さんがやってきた。 「秋子さん!名雪が!名雪が!」 取り乱す俺を横に、秋子さんは冷静に名雪を調べ始める。 「システムがハングアップしたのね」 そう言って名雪の背中をまくりあげ、「リセット」と書かれたボタンをおした。 「うう…おはようございまふぁ…」 良かった。無事みたいだ。 「あれ、祐一、涙なんかこぼしてどうしたの?」 馬鹿、と言って名雪の頭を小突いてやる。 不意の出来事に名雪は頬を膨らまして抗議するが、俺にはそんな名雪の顔すら嬉しかった。 こらえていたつもりが、またしても涙が溢れてしまう。 名雪はそんな俺の顔を見つめては首を傾げるのだった。 「ところで秋子さん、電気で動くって、充電式なんですか?」 「原子力、です」 俺は一瞬目眩がした。 「あの…」 俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。 聞けない。こればかりは怖くて聞けない。 一昨日、名雪の…その…水を飲んだのだけど、あれは安全なのか、と。 おわり