二匹目のドジョウ 作:GLUMip 「引っ越すのよ」 美坂香里の口から漏れた言葉は、俺達三人を驚かせるにふさわしいものだった。 「この街には悲しい思い出が多すぎるから」 香里がそう言い残して去っていった後は、名雪も北川もうつむいたきり何も言わなかった。 香里の妹が亡くなったというのは、先日忌引きで休んだからクラスでは周知の事実だった。 しばらくぶりに登校してきた香里はやつれていて、見ていて痛々しかった。 妹さんの死去と、今度の引越しとは関係あるのだろうか。 そんな事を考えながら、あゆと歩く。 「…という事があったんだ」 「ふーん」 いつものとおり、あゆの片手にはたい焼き入りの袋が握られている。 一匹80円の良心価格とはいえ、毎日5匹ぐらい消費しているので、 あゆの財布のレベルではエンゲル係数もなかなか高いと思う。 「けど、若くして妹を亡くして今度は引越しか。香里も大変だよなぁ」 「うぐ…かわいそうだね…」 …あゆだって、7年間眠りつづけていたんだ。あまり他人事とは思えないのだろう。 話していて過去を思い出したのか、手を握る力を強くしてくる。 「なんでも、俺達の2つ下で栞ちゃんて言うんだってさ」 「え…」 『栞』という名を聞いた途端、あゆが立ち止まった。 しっかり抱えられていたはずの紙袋は音を立てて地面へと落ち、 大事なはずのたい焼きを路面にまき散らかしていた。 「ボ…ボクが悪いんだ…」 「あゆ!?」 あゆは震えていた… 「ボクがお願い使っちゃったから…」 「お願い!?」 「おい!待て、あゆっ!」 あゆは風の如く駆けていった。 早い。 さすが食い逃げで鍛えているだけの事はある。 なんとか見失わずに背中を追うと、いつぞやの並木道に辿り着いた。 あゆは必死で土を掘り返している。 「おい…あゆ…いったい…」 「人形はもう一個あるはずなんだよっ!」 おわり