F=mg 作:GLUMip あゆはいつものように、ちょこんと枝に座って街の風景を眺めていた。 だけどその時、風が吹いた。 「祐一く…」 その瞬間、全ての時間が凍りついていた。 風の音は聞こえなくなり、耳鳴りのするような静寂が辺りを包む。 コマ送りのビデオのように、あゆの小さな体が舞っていた。 まるで、地面に向かって降り注ぐ、一粒の雪のように…。 そして、雪が地面に辿り着く。 どがぁっ…。 音がした。 まるで、ダイナマイトを破裂させたような、低くて鈍い音。 「あゆっ!」 俺はあゆの落ちたところに駆けよって、雪の大地に開いた穴を覗きこむ。 「おーい!あゆーっ!」 返事は無い。 いつ果てるとも知らぬ闇の深遠を覗いた俺の頬を、奥底から吹きあがってきた風が撫でた。 この穴はどれくらい深いのだろう。 暗くてよく分からないが、十秒位してから木霊が返ってきているようじゃ相当深いに違いない。 あ、温泉が沸いてきた。 おわり