原子力仕掛け 作:GLUMip 衝撃の事実発覚から幾日かが過ぎた。 幸い、俺が摂取した名雪の「水」は一次冷却水等の物騒なシロモノではなかったらしく、 俺の体はピンシャンしている。 (注:『ピンシャン』等と今の若者が使わないような言葉を使って誤魔化しているが、 放射線障害が本当に怖い理由は、20年、30年後に機能障害が生じる点であり、 彼の言動はその認識を欠いているといえる) あれから名雪は一度もハングアップすることなく普通に動いている。 ゼンマイから電気に変わったというのに、朝は相変わらずだ。 しかし、今日は珍しく早く起きたと見え、俺が下に下りてきた時には トーストの最後の一口を楽しんでいる所であった。 おかげで、今日は余裕を持って玄関を出ることができる。 いつもは慌しくて寒さを感じるどころじゃなかったが、今日は一段と寒い。 「息が白いね!」 「寒いからな…」 「祐一も息が白いね!」 「寒いからな…」 こんな時は早く暖房の効いた学校に行くに限る。 途中、名雪が猫を見つけてだいぶ出力が上がったりしたみたいだったが、 おおむね安定した状態のまま学校に辿り着く事ができた。 教室の中は暖かい。 こんなに早く教室に着いたのは初めてで、美坂も北川もまだのようだった。 「あの二人、俺達が先に教室にいるのに気づいたら、また遅刻だって騒ぎだすだろうな」 「そうだね…」 二人の姿は簡単に予想がついた。 それだけに名雪も複雑な表情を見せて苦笑する。 美坂と北川の机をかわるがわる眺めては失笑する俺の気を引くように、名雪が語りかけてきた。 「祐一…ほら、息が白いよ!」 名雪はひょっとこの様に口を尖らせて白い息を吐き出す。 俺も息を吐いてみるが、暖かなこの部屋ではちっとも白くならない。 なんだか嫌な予感がした。 名雪のとんがった口は、丁度発電所の奇妙な形の煙突を想起させた。 途端に不安が胸をよぎる。 秋子さんに聞けばすぐに決着が着く話だが… 聞けない。こればかりは怖くて聞けない。 …あの日…あの時に口付けを交わしたけど、果たして大丈夫なのか…と。 おわり