#これはあくまで小説であり、実在の人物・団体などとは一切関係ありません 業界の陰謀 作:GLUMip Keyは倒産の危機にあっていた。 発売が遅れに遅れ、開発費はうなぎ上り。 再三再四のシナリオ変更はゲームの出来映えを良くしこそすれ、当座の危機回避には 全く役に立たないどころか、一層の発売延期を招いていた。 おまけにメインマシンにウイルスが侵入し、バックアップも含めたデータがやられてしまい ここ3週間分の最終開発の成果が吹き飛んでしまっていた。 このままでは来月の給料も危うい。 ビジュアルアーツという本体があるとはいえ、独立採算を旗印に起こしたKeyブランドであるだけに 発売を前に準備資金が枯渇するなどという事態があっては、ソフトを一本出しただけで消滅してしまうだろう。 それは何としても回避しなければならない。 とりあえずは差し迫った今月の光熱費と事務所の家賃の支払いが最優先である。 しかし、足りない。 従業員の給料を2週間遅配しても持たないのだ。 しかもここで給料未払いという事になれば、社員はともかくバイトのテストプレイヤーが逃げ出す。 そうすれば最後の肝心なツメが甘くなり、発売後の悪評が相当になるだろうことは容易に想像がついた。 「北川、買い出し行ってくるけど、夜は何にするんだ」 「牛丼でいいや、相沢」 2人はプロデューサーとメインプログラマーである。 もっともスタッフロールにはペンネームで出ているので、普通の人はまさかこのゲームの登場人物の名が プロデューサーとプログラマーから来ているとは思いもしないのだろうが。 プロデューサーの相沢は徹夜で疲れた体を大きく伸ばしてトボトボと歩き出した。 会社の資金も残り少ない。本当なら今ごろ億万長者のはずだったのに。 開発のずれ込みはある程度予測していたとはいえ、ここまで狂うのは計算外だった。 思わず頭を抱えたくなるが、極度のストレスで脱毛症を起こしている頭を抱えるのも気が引けた。 「ちわっス」 「いらっしゃいませー」 「いつもの6つ」 ここの店長は昔からの知り合いだった。 開発が始まってから毎日スタッフの夜食は牛丼だったが、毎回同じ店で買うのもそういった理由からだった。 「相変わらず浮かない顔してるね、祐ちゃん」 「いや…開発が長引いてね…いろいろ資金も必要でサ」 「もうちょっと金があるなら、絶対にいいソフトが出来るんだが…」 「ふぅん…なんなら、スポンサーになってやろうか」 「ええっ、本当かい?」 「いつもウチの店を使ってもらってるしね」 かくして、Kanonには牛丼屋のスポンサーが付くことになった。 そこで、スタッフは牛丼が好物のキャラを設けることにした。 しかし、それでもまだ資金は足りなかった。 相沢はスポンサー方式というアイデアに着目し、ダメで元々で食品会社と交渉してみた。 「当社のソフトで貴社の製品を紹介するのはお互いにとって絶好のビジネスチャンスかと…」 こうして、某乳製品メーカーとの提携に成功。 予想外の大金を獲得し、傾いていた社の運勢も立て直すことが出来た。 こうなると欲が出てくるのが人間である。肉まんアンまんで有名な大手食品I社、 ついでにたい焼きのチェーン店を持つ会社ともスポンサー契約を結ぶことに成功。 こうして潤沢な資本を持ったKeyは製品版の完成のために全力を投入することになるのだった。 結果は、皆の知る通り。 自信作Kanonは業界に一大旋風を巻き起こし、ヒロインの好物はファンの間で 大ブームとなったのである。 その後、スポンサーになった各社はどうなったか。 乳製品メーカーは特定のアイスが2割増の売れ行きに、 大手食品メーカーのI社は肉まんが前年の6%増。 たい焼きチェーンの会社はたい焼き(つぶあん、こしあんに限る)が35%増しの売れ行きとなった。 ところで、一番最初にスポンサーとなった友人の牛丼屋はどうなったか。 残念ながらビル街の谷間にある彼の店での収益は微増にとどまったと聞く。 ソフトは彼の店の宣伝にはならなかったが、Keyスタッフが毎日彼の店に通いつめるようになったという。 ちなみに…感謝の意をこめて、店長の名前をゲームに出すことになったのはあまり知られていない。 店長の名前は、斉藤という。 おわり