はね 作:GLUMip あゆの背中の羽は、半透明だ。 俺はひょんな事からその事実を知ることになる。 夕焼けの、駅前のベンチの、建物の隙間からかすかに西日が当たる、その場所で。 あゆは小さな体を寄せて精一杯背伸びをする。 「祐一君…ボクの顔見ないでね…」 「きっと、ぼろぼろ…だから…」 涙混じりの、言葉にならない声。 「だ…から、目を閉じて…」 「分かった…」 二人の唇が急接近した、その刹那。 『みーんみんみんみん』 「わっ!わっわっ!」 「なんだなんだ?」 相沢祐一インパクトの瞬間を今!というところで、いきなりの大音響。 あまりのけたたましさに周囲の人も狼狽している。 『みーんみんみんみん』 あゆの後ろの方から音がするようだ。 あゆを抱えるようにして後ろを覗き込むと、なんとしたことか、 背中のリュックについている羽が細かに震え、音を出していたのだ。 「うぐぅ、なんでこんな時に鳴くのぉ〜」 あゆは収まりのつかないリュックを恨めしげに覗いた。 「うぐぅ、止まらない…」 『みんみんみん、みーんみんみんみん』 無理もない。 虫が鳴くのは求愛のしるしだからな。 おわり