カニバリズム 作:GLUMip 鈴が最後の音を奏でたその日。 その日、家に帰ると、秋子さんは全てわかったという顔で迎えてくれた。 「祐一さん、今夜はお鍋を作ったのよ」 暖かな鍋ものが俺を出迎える。 一日中凍えてきた俺への、秋子さんらしい心づくしだ。 蓋を取ると暖かな香りが鼻腔をくすぐった。 真琴と一緒に鍋をつつきたかったなと思ってはつい涙ぐんでしまう。 ポロポロと涙をこぼしながら肉を頬張ると、柔らかで、暖かで、不思議と落ちつく味だった。 いつの間にか涙は止まっていた。気が付くと、無心に鍋を食べていた。 今までの悲しみや嘆きがスッキリと雲散してしまい、かえって心穏やかな気持ちになれた。 俺のしてきた事に間違いは無かったのだという自信、真琴と別れる最後の瞬間まで 抱きつづけてこれたあの自信を取り戻し、真琴も俺も、結局は幸せなのだのだという 思いが溢れてきた。 「祐一さん、良かったですね」 鍋を食べ終えると、秋子さんがそう言ってくれた。 秋子さんは俺の心までお見通しのようだった。 祐一が階段を上がってゆくと、秋子は食器を洗い始めた。 名雪がふと秋子に振りかえり、そういえば、と言って喋りだした。 「今日のお肉、なんだったの?」 「企業秘密よ」 名雪は眉をひそめて、一瞬困惑した様子だったが、すぐに向きを変えて階段を登っていった。 「これで祐一さんと真琴は永遠に一緒ですね・・・お幸せに」 台所の窓を開けて、秋子は星空を眺めやった。 祐一は部屋の窓から星空を眺めていた。 真琴、とつぶやいて満腹のおなかを撫でまわした。 いつまでたってもおなかの中は暖かだった。 それは、真琴と祐一が共有した暖かさに似ていた。 星が瞬いた。 祐一は飽きもせず星空を眺めていた。 そのまま視線を下の方に向ければ、庭の片隅の土が掘り返したばかりである事に気づいたろう。 しかし、祐一の目は上に向けられていた。 もう一度星が瞬いた。 祐一は、夜空に真琴の笑顔を重ねては満足そうにげっぷを繰り返すのだった。 おわり