秘密の香里日記 作:GLUMip …お茶がおいしい。 日曜日の午後はちょっとアンニュイな気分に浸ってみる。 流れてくる音楽に身を委ねた素敵な時間。 「香里…お前、なに番茶を飲みながらNHKののど自慢なんか聞いてるんだ…」 あ、あ、あ、相沢君っ!?なんでここに!? 「いや、栞に誘われてやってきたんだが…お邪魔しちゃまずかったかな」 相沢君は畳の上に放り出した読みかけの「健康」(愛読の雑誌よ)とか、 「盆栽入門」とかとあたしの顔を交互に眺めては困ったような顔をしている。 あああっ、見た!見たのねっ! 相沢君の同情に満ちた表情がたまらなく悔しい。あれは哀れみの目だ。絶対。 なによ、「健康」と「盆栽入門」がそんなにいけないわけ? 見ていると相沢君は口をもごもごさせてなにやら言いたそうな様子だわ。 「香里…言いにくいんだが、その、盆栽入門ってのは…」 「あらやだ、ガーデニングよ、ガーデニング!」 「盆栽は盆栽だろ」 「…相沢君、名雪に言ったらどうなるかわかってるわね」 左手にメリケンサックをはめてみると途端に相沢君はおとなしくなった。 「言わない…約束する」 真っ青になって震えているところを見ると、当面は大丈夫そうね。 ちょっと安心。 「の、のんびりしているところをお邪魔してしまったみたいだなぁ」 相沢君、台詞が棒読みよ。 「それじゃぁ、俺は帰るかなぁ」 あんた、何しにここへ来たわけ… 相沢君はそそくさと立ち去っていった。 ふぅ…せっかくの時間が台無しだわ。 貴重な日曜日の午後。 素敵な音楽に身を委ね、硝子越しに感じる春の日差しを浴びながら、お茶と一緒にある生活。 ゆっくりと流れるあたしの時間。 こんな大切な時間、そう簡単に踏みにじられてなるものですか。 あたしはドテラを羽織り直し、炬燵にすっかり体をうずめて「健康」を読み始めた。 手ごろな大きさのみかんを一つとって房の一つを口にほうり込む。 テレビからは絶え間なくのど自慢の歌声が流れてくる…そんな素敵な日曜日… おわり