相沢オークション 作:GLUMip 「只今から、相沢コレクションの競争入札を開催します!」 相沢祐一の開会宣言に、客席はいやが上にも盛り上がる。 沸き起こる万雷の拍手。 参加者の表情は皆一様に真剣そのもの。 一つでも競り落とさんとの必死の心情が熱気となって伝わってくる。 「では…初めの商品です…」 祐一はごそごそと傍らの袋をまさぐった。 おもむろに袋から取り出すもの…それは… 「名雪が毎晩抱いているぬいぐるみ、けろぴー!5千円から!」 なゆきすと、と呼ばれる集団がすかさず挙手をする。 7千円、9千円…瞬く間に値段は釣りあがってゆく。 一万…二万…次々と塗り替えられてゆく値段はとどまる所を知らない。 予想以上の高値に思わず笑みが漏れてしまう。 結局…バイト代全額をはたいたという青年が競り落とした。 けろぴーを渡すと喜んで抱きしめ、ほおずりしながら客席へ帰ってゆく。 祐一はその光景に眉をひそめたくもなったが、目の前の大金の方に気が奪われそれどころではない。 「これはもうかるぞ…」 今後の出品物を考え、思わず胸算用をしてしまう。 さて、次のエントリーはなんであろうか。 客席はしんと静まり返り、祐一の一挙手一投足に注目する。 「次の商品は…これだぁ!」 おおおおおおおっ! 客席のどよめきが聞こえる。 祐一の取り出したのは重箱… 栞の作った弁当が入っているのは言うまでもないだろう。 しおりすと、と呼ばれる一団が元気良く手を上げる。 おっといけない、フライングだ。 ぴっぴっぴー。 何処から取り出したのやら。 祐一はホイッスルを吹き鳴らし教育的指導。 イエローカードが出なかったのは不幸中の幸いである。 「では…栞の弁当…この弁当は今朝作られたものなのでまだ食べられます…8千円から!」 さっきの勢いに気を良くした祐一は、遠慮がちに少しだけ最低金額を上げてみた。 しかし、あっという間に倍の、そのまた倍の金額が付けられ、どんどん値上がりしてゆく。 ぐふふふふ… こうなると笑いが止まらないのが祐一である。 当初の厳粛な表情は何処へやら。 今の祐一のそれは商人の顔であった。 「続いて…エントリーナンバー3…ありくいのぬいぐるみっ!」 巨大かつ奇妙な造形のぬいぐるみが開陳された。 「なんと佐祐理さんの血がついています!」 さゆりすと…と呼ばれる集団が感極まって叫び出す。 2万!3万! 一万単位で落札価格は暴騰してゆく。 数分にわたる戦いの後、遂に落札者が現れた。 「おめでとうございます!本日の最高金額ですね」 祐一は満面のニコニコ顔である。 これで当分遊んで暮らせる…この金をどうやって使おうか… そんな事を考えていてはホクホク顔になるのも無理はない。 「…祐一…」 しかし、平和は破られた。 「はっ…ま…舞…」 「祐一…佐祐理を傷つけた…」 「ななななな…何を言う…だいたい佐祐理さんは今日は来ていないじゃないか…」 「守銭奴…嫌い…」 舞の手が剣を握りなおす。 「わーっ…話せば分かる」 「…問答無用…」 狂乱、沈黙、静寂… 祐一はばったりとその場で倒れ伏した。 舞が祐一の学生服を剥ぎ取り、高々と持ち上げる。 「エントリーナンバー4…祐一の学生服…」 ぼそり…低く単調な響きで声が紡ぎ出される。 「…血がついてます…100円から…」 おわり