待ち人 作:GLUMip 「その女の子の名前が、たしか・・・」 秋子さんがそこまで口にしたとき、俺は立ちあがっていた。 「あゆ・・・月宮あゆ!」 俺がそう叫ぶと、秋子さんは深くうなずいた。 「行ってきなさい。祐一さん」 暖かなこの街を駆ける俺がいた。 一分でも、一秒でも早く。 あゆに・・・あゆに会いたい。 病院で面会申し込みを済ませ、エレベーターを待つ。 もどかしい。俺はドアの前をうろうろした後、階段を駆け上がった。 月宮あゆと書かれたプレートの貼ってあるドアを開ける。 ベットの上のあゆは、変わっていなかった。 「あゆっ!俺っ・・・」 あゆの顔を認めると、じわりと目から熱いものが流れ出す。 「・・・!?」 あゆは目を丸くして俺の顔を見る。 「・・・・・・・」 あゆは無言だ。 「あゆっ!俺だよ!祐一だよ!」 「本当に・・・祐一君!?」 あゆの表情が見る見るうちにやさしくなって・・・ 「祐一君・・・来てくれたんだね」 それだけ言って、泣き出した。 「ボク、ずっと待っていたよ。毎日毎日夢の中だった。 夢から覚めないんじゃないかって、ずっと思ってた。 夢の中で、祐一君と会ったよ。祐一君と一緒に過ごせて、ボク、幸せだったよ。」 堰を切ったようにあゆが喋りだす。 「祐一君とデートしたよ。雄一君と一緒に、たい焼きいっぱい食べたよ。」 うんうんとうなずいて、あゆの手を握る。 「でも、今朝目が覚めて、それからは不安だった。」 俺の動きが止まる。俺の目が細くなる。 「起きたら、祐一君いなかった。」 溢れる涙。 「ボクが見ていたのは本当に夢で・・・」 震える声。 「もぅ、祐一君来ないんじゃないかって・・・」 強くまぶたを閉じる。ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。 「それなら、なんでボク目が覚めちゃったんだろうって・・・」 あゆの手を、強く握り締める。 「全然、夢なんかじゃないぞ」 ふっとあゆの表情から緊張がとれるのがわかる。 あゆが手を握り返す。 ボク・・・と言いかけて、それから先はすごく聞き取りにくかった。 「ボク・・・待っていて良かった・・・」 あゆは目を開いて、俺をやさしく見つめなおす。 目からは絶え間なく涙が流れていた。 手を握り締め、俺も流れるに任せていた。 「祐一君・・・大きくなったねぇ・・・」 おわり