見えない恐怖 作:GLUMip 栞の抽象画もだいぶマシになってきた。 流石に二回目の夏を迎えるまでほとんど毎日描いてきただけのことはある。 スケッチに付き合う俺も俺だが… 「まだ動いてはダメです」 暑い…栞はかれこれ二時間近く悪戦苦闘している。 日の当たる公園で立ちつくす俺の立場にもなってほしいものだ。 ちなみに栞はちゃっかり木陰にいる。 すっかり疲れて肩も重い。 暑いし、だるい。 …本当に辛いぞ。 「できましたー!」 バンザイをするようにスケッチブックを掲げる栞。 やっと解放されたのか、長かったな。 「どれどれ、見せてみろ」 「あっ」 不意をついて栞の手元からスケッチブックを引ったくる。 栞が隠す前にスケッチブックを奪うのも今では手慣れた技になってきた。 何度も犠牲…いや、モデルになってくればこれ位慣れてしまうものである。 「どれどれ〜」 ページをたぐると…あったあった。 最近ではそれでもだいぶ上達して見られるものを描くようになってきた。 とりあえず、描かれているのが誰であるかわかるようになったのだから、凄いことだ。 …が、また振り出しに戻ったのか。 俺とおぼしき人物の脇には抽象画の俺の顔がいる。 俺の前髪のあたりにも謎の横線が入っていて、前髪と目ははっきりと描かれていない。 「栞…なんだこれ…」 俺は抽象画の俺を指した。 栞は懐疑的な眼差しで俺を見つめた後、吐き捨てるように言い放った。 「祐一さんには見えないんですか!?」 おわり