しおりのなかみ 作:GLUMip スケッチブックに鉛筆を走らせながら、祐一さんにちょっと意地悪な問いかけです。 「例えば…今、自分が誰かの夢の中にいるって、考えたことはないですか?」 「俺は、ないな」 そんな事を言う祐一さんに、もう一つだけヒントを出してみます。 「私の、私たちの夢を見ている誰かは、たったひとつだけ、どんな願い事でも叶えることができるんです」 もう少し、ヒントをあげてみます。 「夢の世界で暮らし始めた頃は、ただ泣いていることしかできなかった」 「でも、ずっとずっと、夢の中で待つことをやめなかった…」 「そして、小さなきっかけがあった…」 そう、ポイントは「小さなきっかけ」ですよー。 「たったひとつの願い事は、永い永い時間を待ち続けたその子に与えられた、プレゼントみたいなものなんです」 「だから、どんな願いでも叶えることができた…」 「例えば…」 「ひとりの重い病気の女の子を、助けることも」 さあ、祐一さん、気づきましたか? 「ちょっと意味ありげでかっこいいですよね」 「別にかっこよくはないけどな」 「祐一さん、ひどいですー」 本当は、鈍いですーって言おうかと思ったんですけど、それは流石にやめておきます。 「…そういえば、最近あいつの姿見ないな」 おや、自然と解答に辿り着いたみたいですね。 でも、まだ祐一さんは肝心な点に気づいてないみたいです。 「あゆさん、ですか?」 私、こうやってちょこっと祐一さんの意識を突っついてみます。 「最後にあゆと会ったのは、いつだったかな…」 「相変わらず、元気にたい焼き持って走り回ってるんだろうな」 「もう、たい焼きの季節じゃないですよ」 季節は春。 そうです、これからはアイスの季節ですよ。 体が変わったんですから食べ物の好みや口調を元の持ち主に合わせるのは当然です。 でも…鉛筆を持つのは右手でも、お箸を持つのは左になってしまいました。 …それにしても、祐一さん最後まで気づきませんでしたね。 それなら、今後は一切黙っておきましょう。 ええ、口が裂けても、元の体の時の口癖は出しません。 「うぐぅ」なんて言ったら、すぐにばれちゃいますからね。 おわり