なゆる 作:GLUMip 月明かりを浴びた名雪の姿が、青白く浮かび上がる。 微動だにしなかった名雪が、小さく震えているのが分かった。 「…ダメ…なんだよ…」 「わたし、もうなゆれないよ…」 「なゆれなくなっちゃったよ…」 無表情だった名雪の瞳に、大粒の涙が浮かんで… せきを切ったように、溢れていた…。 「わたし、なゆりすとなんてなれないよ…」 「ずっと、お母さんと一緒だったんだから…」 「……」 流れる涙と、嗚咽の声が、静かだった闇の中を充たしていた。 涙の雫が頬を伝って、パジャマの生地に吸い込まれる。 俺は、それ以上言葉をかけることもできずに、ただ、名雪が泣きやむまで、その場所で見ていることしかできなかった。 翌朝。 「祐一さん、おはようございます」 丁寧な挨拶で起こされた俺は、てっきり秋子さんがいるのかと思って飛び起きてしまった。 見ると、名雪が傍らにいるのだった。 目覚ましの時間より1時間も早い。 俺が目を白黒とさせていると、目をパッチリさせた名雪が顔を覗きこむ。 「祐一さん。ご飯ができてますよ」 訳がわからぬまま、階下に行くと味噌汁の香りが鼻腔をくすぐった。 食卓には焼き魚や味噌汁など、典型的な日本の朝食とも呼べる品々が並んでいた。 名雪は手際良く家事をこなしている。 今までの朝の名雪を見慣れた目には信じ難い光景だった。 「名雪…なにがあったんだ」 「昨日言ったでしょう、もうなゆれないって」 名雪の左手は頬にあてがわれていた。 おわり