ぴろとねこさん 作:GLUMip 「うー、ねこさん、ねこさんだぁ」 それは悪夢としか言いようが無かった。 もとより隠しとおせるとは思っていなかったが、2日目にして早々に見つかってしまうとは流石に予想外だった。 「あう〜。ぴ…ぴろ〜」 真琴がドアを開け放しにしていたのが発覚の原因だった。 ぴろは肉まん片手に漫画に没頭する真琴が全然構ってくれないことを悟ると、ドアの隙間から水瀬家探検に出かけたのである。 いつかは発覚すること。 覚悟はしていたが、案の定名雪はぴろを目にすると、さながら夢遊病患者のごとくぴろの姿を追いかける。 今、こうして俺が後ろから羽交い締めにしていなければ真琴の後ろにいるぴろ目掛け突進していることだろう。 名雪とぴろを結ぶ直線状に存在する真琴は突き飛ばされるに違いない。 真琴の後ろに隠れるようにしてぴろが怯えていたとしても、名雪には関係ないからだ。 「名雪、それは猫さんじゃないぞ」 「うそだよ。ねこさんだよー。ほら、可愛いよ。目がうるうるしているよ…」 それはお前の目だ。 名雪は両の瞳でぴろに熱いメッセージを送る。 それはぴろの恐怖と、ぴろの前に立ちはだかる真琴の狼狽を増幅させるだけだった。 「ねこさん…ねこさん…」 「名雪、しっかりしろ。あれは猫さんじゃないぞ」 「祐一、嫌い。ねこさんだよー。放してよー」 「本当に猫さんだと思うなら名前を呼んでみろ」 「うん…ねこさんっ!」 名雪はぴろに呼びかけたがぴろは怯えたまま震えるだけだ。 「あれ…返事しないよ…」 「そうだろう。おい、ぴろっ!」 「にゃぁ」 ぴろは俺が呼びかけると助かったとでも言いたげに返事をする。 「ねこさんっ!」 「………」 ぴろは名雪の呼びかけには全然反応しない。 名雪がすがる様に俺に振り返る。 「祐一、返事してくれないよ…」 「ぴろって呼んでみろ」 「ぴろっ」 「にゃぁ」 首をすくめていたぴろは元気良く返事をした。 「これでわかったろ。ぴろは猫さんじゃなくてぴろだって事が」 「うん、わかったよ。でも、残念だよ…ねこさんだと思ったのに…」 名雪は心底から残念そうに溜息をついた。 そして俺の手を解くと寂しそうに自分の部屋に戻っていった。 名雪は一度も振り返らなかった。 おわり