探し物 「探し物、みつかったよ・・・」 ボクがこう言うと、祐一君はいつもみたいに喜んでくれたよ。 「ボク、もうこの街に来ないと思うんだ・・・」 祐一君、ボクの住んでいる街に来てくれるって言ったよ。 ごめんね、祐一君。ボクの街は、すっごく遠いんだよ・・・ 1月も終わり、駅前の時計の針が0時を指した。 森。 学校の跡にたたずむ少女がいた。 かつて木のあった所を見上げる。 「さよなら、祐一君。」 あゆは一人つぶやくと、小さな汚れた天使を背中のリュックに大事そうにしまいこんだ。 この街ともお別れだね。 ボクもこの街にいたかった・・・ この街で、祐一君と過ごしたかった・・・ 静かに振り向いた頬には、涙。 「祐一君、ボクもう行かなきゃ。」 その声は闇の中に吸い込まれる。 森がざわめく。しかし、誰もいなかった。何も答えなかった。 あゆは、街のほうを見やった。 ゆっくりと大地から足が離れ、少しずつ遠ざかってゆく。 木々の向こうに街並みが見えた。 あれが祐一君の住んでいる街・・・ あれが、ボクが祐一君と過ごした街・・・ 森の木々は眼下でどんどん小さくなってゆく。 さようなら、祐一君・・・ ボク、祐一君と会えて幸せだったよ・・・ とめどなく流れ落つ涙が彼方の地面へ消えてゆく。 「祐一君、栞ちゃんと幸せになってね・・・それが、ボクの・・・最後のお願い・・・」 最後に、あゆの目元がキラリと光った。 ひときわ大粒の涙が、ふわりと舞って公園へと降っていった。 公園には二人の影があった。 雪の上に横たわる栞はぼんやりと夜空を見上げていた。 傍らの祐一は疲れ果てて眠っていた。 絶え間無く降ってくる雪。 ひときわ大粒の雪が、栞の肩に舞い降りてきた。 栞はゆっくりと起きあがった。 細い雲間から星が見える。 栞には見えた。一条の光が空を駆けるのが。 栞が祐一を包むようにストールをかけると、祐一の唇の隙間から言葉が漏れた。 「しおり・・・」 栞は祐一のそばにかがみ込んだ。 絵も描いた。唇も重ねた。栞に残されている事は、ひとつだけだった。 「さようなら、祐一さん」 雪は止んでいた。 栞は、ゆっくりと歩き出した。 そして、公園に背を向けたまま二度と振り返らなかった。 誰も知らなかった。 その日、流れ星がひとつ、夜空を駆けたことを。 栞も知らなかった。 その日、奇跡が舞い降りてきたことを。 おわり