赤飯のある食卓 作:GLUMip 「祐一君っ!大変だよっ!」 左後方から高熱源体が急速接近するのを察知した俺は咄嗟に回避行動に移った。 間一髪、高速移動体は紙一重の差で俺の右斜め32度の方向へ駆け抜け、衝突した。 …壁と。 「うぐぅ…痛いよぉ…祐一君が避けたぁ」 「悪い。身の危険を感じたものだから」 いつもなら鼻をさすりながら詰め寄るあゆだったが、今日はどこかおかしい。 「それよりも、大変なんだよっ!」 「どうした」 「ボク…ボク死ぬかも知れないんだよ…」 あゆの顔は神妙で、冗談を言っているとも思えない。 流石の俺も、突然の出来事に狼狽していると、あゆは俺の胸に顔をうずめて泣き始めた。 「どうしよう…やっと祐一君と一緒になれたと思ったのに…こんなのってひどいよ…」 「あんなにいっぱい出たんだもん…絶対ボク死んじゃうよ…ボク死んじゃうんだ…」 「わかったからとりあえず落ちつけ…何がどうなったから死んじゃうんだ!」 「うぐぅ…話せば長くなるんだけど…」 視線を下に向けてぽつりぽつりと語りだす。 「朝起きたら…その…血がついていたんだよ…」 「血がついていたって、どこの?」 俺が問いただすと、うぐぅ…と言いよどんで微妙に視線をずらした。 「そっ…その、パ…パンツに血がついていたんだよ…」 俺は思わず吹き出してしまった。 「どうしよう!ボクあとどれ位で死んじゃうのかな!ボクどうすればいいんだろう!」 なおも取り乱すあゆの姿を見て、俺は笑いを隠しきれなかった。 「なんで笑うの!?ボク死んじゃうんだよ!」 あゆはもはや半狂乱だ。 俺はついに声を上げて笑い始めた。 いつの間にか秋子さんや名雪がやってきてあゆにお祝いの言葉をかける。 「今夜はお赤飯ね」 「よかったね、あゆちゃん!」 「どうして!?なんでそんなにみんな喜んでるの!?ボク死んじゃうんだよ!」 ただ一人取り乱すあゆをよそに、みんな笑顔であゆを囲む。 「どうしてっ!?ひどいよ!ボク死んじゃうのに!みんないじわるだよっ!ひどいよっ!うぐぅ、ひどいよ〜!!」 朝の水瀬家に、一際大きいうぐぅがこだました。 おわり