深層心理 作:GLUMip 公園で絵のモデルになりながらとりとめのないことを話すのが、ここ一ヶ月の日課だった。 「なぁ、初めて学校で会った日の事だけど…」 鉛筆を滑らしながら俺を見つめている栞に語りかける。 「なんで、中庭にいたんだ?」 少し考えれば自分でも結論が導けたはずの疑問を、俺はなんとなく聞いてみた。 「人を待っていたんですよ」 「誰を」 「お姉ちゃんです」 栞の手の動きがそこで止まってしまった。 「お姉ちゃんがわたしを避けていたから、わたしは学校にいったんです」 …今でこそ姉妹仲良く過ごしているが、あの頃は相当辛かったはずだ。 もう少し考えてから話せば良かったと若干の後悔を覚える。 姉に拒絶され、それでも認めてもらおうと必死の栞…過ぎ去った事とはいえ、今考えても胸が痛くなる話だ。 しかし、栞は屈託なく話を続ける。 「あの頃、なんでそんな事をしていたか、自分でもわかりませんでした」 「学校に行っても、お姉ちゃんが私を見てくれるわけないのに…」 栞は俺から目線を外した。 「わたしの行為はお姉ちゃんをただ傷つけるだけだったんです」 「心の中のどこかで、平穏な日常を過ごしているお姉ちゃんが羨ましかったのかもしれませんね」 俺は相槌を打ち、栞の代わりに言葉を続けた。 「そして、少しでもその空気に触れたくて学校に行った…か。なるほどな」 俺は納得した表情で頷いた。 「違うんです」 栞が間髪いれずに否定する。 「最初は自分でもわからなかったんですが、最近になってようやくわかったんです」 栞の表情は険しい。 さらなる深刻な理由があったのだろうか。 「わたしはお姉ちゃんの幸せが羨ましくて仕方ありませんでした」 「そこで、わざと学校でも姿を見せる事でお姉ちゃんを傷つけていたんです」 栞は何を言いたいのだろう。俺は戸惑いを感じた。 「そして、長時間雪の中でたたずむ事で、お姉ちゃんを苦しめていたんです」 「自分が苦しめば、お姉ちゃんも苦しむ…自覚はなかったんですが、その事に自然と気付いていたみたいです。」 …なんだか、話の雲行きが怪しくなってきたような気がするのは気のせいか。 「わたしは知らず知らずのうちに、どす黒い快楽の世界に引き込まれていきました」 「お姉ちゃんが影で泣いていたり、一人で苦しんでいるのを見るにつけ、わたしも辛い思いをしましたが、実は密かに喜んでいるわたしもいたんです」 「潜在的なサディズム、って言うんでしょうか。わたしの心の闇の部分が、こうして開け放たれてしまったんです。」 なんだか、嫌な予感がする。 「…そしてその魅力は今もわたしを捕らえて離さないんです」 栞は微笑んだが、それは初めて見る悪意に満ちた笑いだった。 「…今度は祐一さんです。逃がしませんよ…」 おわり