終着駅 目が覚めると、終着駅だった。 向かいのホームは既に灯を落としている。 列車に乗っていた乗客はまばらで皆一様にうつむいていた。 乗ってきた列車の側面には回送の二文字が掲げられてどこか寂しげだ。 俺はポケットをまさぐると、この駅までの片道切符が出てきた。 改札の駅員がキップを受け取り、ふかぶかと一礼する。 この駅には切符売り場がない。 だからこの駅で降りると引き返せない。 考えてみれば、途中下車すれば引き返すこともできたのだろう。 しかし、俺は乗りつづけてしまった。 そう、俺は待ち合わせをしていたのだから。 駅前にはダッフルコートを羽織った少女が寒そうにして待っていた。 「待たせたな、あゆ」 「ついに来ちゃったんだね、祐一君」 あゆは嬉しいような悲しいような複雑な表情をしてみせた。 「だいぶ待たせたな」 「ねえ、今ごろみんな泣いているんじゃない?」 あゆはまたも眉をひそめたが、俺の表情はさっぱりしていた。 「そうかもな。でも、精一杯やってきたんだからみんな分かってくれるさ」 そうだね、と軽く頷くあゆの頭を久しぶりになでてやる。 「本当に、待たせちゃったな」 何年…いや、何十年待たせた事か… 「でも、あゆは変わらないな」 「祐一君は、すっかりおじいちゃんだね」 「嫌いになったか?」 「ううん…ずいぶん温もりのある人になったなぁって…」 あゆは俺の皺だらけの手を取った。 一度だけ、俺は振り返る。 駅は既に暗くなっていた。 「祐一君っ」 「これから、どこへ行く?」 「さぁ、どこへいこうか…」 「この先は、もう電車ないよ」 「じゃぁ、歩いていくか。行ける所まで」 「うんっ…」 …そうだな、あゆと一緒になら、ずっと歩いていくのも悪くないだろう。 おわり