たい焼きの冬 作:GLUMip 名雪と一緒に、何度もこの街で冬を迎えた。 もう、何度目になるのだろう。 俺は名雪と結婚して、一児の父となった。 愛娘は(目に入れても痛くないとは、よくいったものだ) 元気良く育って今じゃ小学2年生である。 雪。 雪が降っていた。今年も。 娘と一緒に商店街へ行く。 タイ焼きの屋台の前で娘が急に止まり、屋台を食い入るように見つめている。 買って買ってとせがまれて、つい買ってしまった。俺は親バカだ。 はむ。と、娘がたい焼きをほおばる。 俺も、負けじとたい焼きをほおばる。 娘と一緒の幸せなひととき。 ・・・だが、不思議と熱いものが頬を伝う。 「・・・お父さん、なんで泣いているの?」 「泣いて食べるより、笑って食べたほうがおいしいよ。」 娘はそう言って精一杯笑ってみせた。 昔、この街で、この場所で。 何かがあったような気がする。 しかし何も思い出せない。 涙はいまも流れつづける。 俺はこんなにも幸せなはずなのに。娘はこんなにも笑っているのに。 胸が痛い。この疼きの理由すら、もう判らない。 おわり