美坂栞吐血日記

作:GLUMip

うららかな小春日和。
退院した栞と、俺は商店街を歩く。

「それで、お姉ちゃんったらひどいんですよ」

ひどいと言いながらも笑顔の栞。
栞は失われた時間を完全に取り戻していた。

「わたしの絵を…げふっ!」
もっとも、栞は完治しておらず、時々吐血する。

「えぅー」
口の周りはまたもや血でベトベトだ。
その口元を拭うのが、俺の役目。
「栞、そうむずがるな」
街路の真ん中で恥ずかしい光景ではあるが、口調とは裏腹に栞はまんざらでもないらしい。

商店街の道々にはところどころ赤黒いシミがあるが、これは栞が吐血した痕跡だったりする。
まぁ、いつもの事だ。

俺は栞の吐血にも慣れっこだったし、そんなに今の状況を気にしてはいなかった。
あの日までは。


噴水のある公園は定番のデートコースだ。
日曜日の午後。俺はいつものように噴水の脇でポーズを取らされる。

「なぁ、動いていいか?」

栞はスケッチブックに向かって悪戦苦闘している。

「動かないでくださいっ!」

そうは言っても、モデル側にしてみれば同じポーズを1時間近く維持するのは苦痛に他ならない。

「なぁ…栞…」

「駄目で、げふっ!」

俺は仰天した。

「え…えぅー」


「喋るな栞!噛むぞ!胃を!」


ぶらり、ぶらり。
柱時計の振り子のように、栞の口から往復運動を延々と続ける物体を前に、
俺はどうして戻したものかと途方に暮れるのだった。


おわり