同人誌即売会「とことんKanon2」を 舞台に繰り広げられる入口担当スタッフの記録。 「とこかのスタッフ奮戦記」の続編。 実在の即売会とは一切関係がありません。 とこかのスタッフ敢闘記 作:GLUMip 「なんだ、あまり旨そうじゃないな、スタッフなら『うぐうぐおいしいねぇ』と言え」 「そんなこと言う人、嫌いです」 …風が吹いた。 …冬の風は冷たかった。 班長の顔が見る見るうちに青ざめてゆくのが分かる。 「きっ貴様ァ!いつからシオリスト(栞愛好家)にっ!」 班長は生粋のあゆらー(あゆ愛好家)として有名だったのを忘れていた。 しかも過激派だった。 栞シナリオをクリアした時の話だ。 班長が「あゆの犠牲の上に成り立つ幸せなど認めん!俺が打ち崩してくれる!」 …と、あゆが聞いたら怒りそうな台詞を吐いたのをいまだに覚えている。 「貴様なんぞアイスクリームで十分だ!ええい、山ほどアイスをくれてやる」 …それは勘弁してほしいと思った。 この寒空だ、アイスを食べたらそれこそ生死に関わる。 気分屋の班長を必死でなだめ、自分があゆ・名雪のあゆなゆファンであることを表明する。 「そうか、じゃぁたい焼き、食べるよな」 これはたぶん、脅迫という犯罪なのではないかと思う。 そう言って新たにたい焼きを差し出して班長は笑ってみせた。でも目が光っている。 「…うぐうぐ、おいしいねぇ」 かろうじてその言葉を口にすると班長は目を丸くした。 「…泣きながらその台詞を言うとは…疑ってすまなかったな」 涙の意味が違う。 そう思ったが、胸のうちに秘めておく。 入口担当の間で泣きながらたい焼きを食べるのが流行る日も、そう遠い事ではあるまい。 班長は「バイバイ、祐一君」等と言いながら、紙袋片手に去っていった。 向こうの班員に突撃を敢行して転んでいたのも、あゆらーの班長の面目躍如といったところか。 …それにしてもたい焼きは無事なんだろうか。 不本意ながら腹ごしらえを済ませたところで辺りを見渡すと、結構列が伸びてきた。 そろそろ列の圧縮を行わねばならないだろう。 「祐一、あっしゅく、だよっ」 …元ネタが分かったらしい何人かが笑っているのを確認しつつ、圧縮作業にはいる。 「うぐぅ、列に戻ってよ〜」 買い出し会議やカードゲームに興じている集団に声をかけると、慌てて立ちあがって 元の場所に戻っていった。…ゴミを残したまま。 「祐一君ひどいよ…」 仕方なく拾ってゴミ箱に捨てる。 トイレに行った人が帰ってこれるように少し時間をおいてから圧縮を開始。 既に会場周囲に列が溢れているのに、みんな全然詰めてくれないのは非常に悲しい。 「もっと詰めてほしいと、ボクは思うんだよっ」 …もはや何のキャラクターだか分からなくなってきた。 「うぐぅ、詰まらない…」 悲しくなってきた。 「祐一君、いじわるだよっ!」 そう言うと、みんな詰めてくれたので世の中まんざらでもないようだ。 参加者が全員祐一という名前らしいことが確認できた。 しかもいじわるらしかった。 列が圧縮されると、必ずいくつか荷物が残される。 御多分に漏れず、今回も点々と荷物が残っている。 その一つを持ってみると、お手製らしい天使のキーホルダーがついていた。 高々と持ち上げて、持ち主を探す。 「探し物、見つかったんだよ」 しかし悲しいかな、持ち主が現れたのはそれから15分後だった。 もはや自分がどの辺にいたのかすら分からない。 同情の一つも生まれてきそうなものだが、顔をよく見るとこいつ確か徹夜組だ。 なんだ、ざまぁみろ。 心の中で快哉を叫びつつ、開場直前のミーティングに向かった。 つづく