取引 作:GLUMip 「一週間だけ、わたしを普通の女の子として…」 香里は、次の誕生日まで生きられないと言っていた。 栞の悲壮な決意を前に、俺は… 「一週間じゃ駄目だ。100年と一週間だ!」 馬鹿なことを言う俺に、栞はひどく悲しそうな顔をした。 「無理です…一週間だけです…」 「じゃぁ、80年と一週間!」 「駄目です、一週間だけです…」 「70年と一週間!」 「…そこまでいうなら8日間くらいなら…」 「65年と一週間!」 「9日間」 「63年と一週間!」」 「10日間」 「62年と…」 結局、一週間は32年7ヶ月と1週間と17時間30分になった。 「祐一さん…後悔…しませんか…?」 口約束をしても、運命には逆らえない。 それを承知の上で栞を励まそうとしていたことに、栞も気づいていたようだ。 しかし、俺は奇跡を信じている。 例え、望みがかなわなくても、それでも本望だと言える。 栞を離したくはない。 栞の眼差しを正面から見つめる。 「俺は後悔はしない主義なんだ」 「テレビドラマみたいな台詞ですね…」 ………。 ……。 …。 まったく、ドラマみたいだった。 あれから栞の病気はみるみる内に快方に向かい、半年も立たないうちに治ってしまった。 夏が過ぎ、秋が来て・・・また、中庭のアイスを思い出す季節が巡ってきた。 学校の帰り道、いつもの角を曲がろうとすると、けたたましいクラクションが聞こえた。 思わず振りかえると、車。 間に合わなかった… …男が立っているのが見える。 暗がりの中、ただ一人。 男は振りかえってにやりと笑った。 「あなたが引き伸ばした娘さんの分、確かにいただきましたよ」 おわり