右手への憎悪

作:GLUMip



「描けない…描けないです…」

暗闇の中、私の声だけが部屋に響きます。
お姉ちゃんが言ったことは事実なんでしょう。
右手が、私にその事を伝えています。

私は、次の誕生日まで生きられない…

その証拠に私の手は震えてまっすぐな線ですら引けなくなっているのですから。

私はかすかに震える右手を左の手で掴みました。
細かい振動を続ける右手の上に、一つ、二つと滴が垂れ落ちています。


来る日も来る日も、病院のベッドで横になる生活。
そんな中、ただ一つの楽しみと言えば、絵を描くことだけでした。
ところが今はどうでしょう。 病院を出た私は、絵を描くことすらできなくなっている…
左手を添えながら、床に置いたスケッチブックの上に鉛筆を走らせます。
頭で描いたイメージとかけ離れた線が無軌道に描かれていきます。
私は考えたとおりに描けなくなっていました。

かつて「自分の醜い部分が分かっちゃうから…」と、言っていたお姉ちゃんにはとても見せられません。
私が本質を捉えて描く事を知っていたお姉ちゃんは、モデルになるのを嫌がりながらも、技巧派の私を誇らしく思っていました…
それが、今は作品とも呼べないような物しか描けない私の姿を知ったら、どんなに悲しむのでしょう。
だから、誰にもこのスケッチブックは見せられません。
私に、生きている価値なんてないです。
イメージが具象として結実しない芸術家なんていらないです。

退院して手に入れたかに思えた自由… それこそが煉獄であることを今になって知った私は馬鹿です。
あのベッドの上で私がどれほど自由で、いかに人生を謳歌していたかを今になって知った私は馬鹿です。


しばらくの後、私は、コンビニに向かって駆けだしていました。
最後に、できることをして…そして、この憎い右手と永久に別れます。

…絵の描けない私と一緒に。

おわり